土曜の早朝の電車の中は空いている。いつものラッシュ時の朝からは想像も出来ない。
とはいえ、乗っている人はいる。こんな朝っぱらからどこに行くのか。
かくいう俺はというと、どこにも行かない。
ただ自分の部屋へ戻るのが嫌で時間つぶしに乗っている。終点の駅まで行って、またもどって来ただけ。一眠りしようと思って乗ったのに、結局一睡も出来なかった。
後悔役に立たず――そんな言葉が頭ん中をグルグル回っていた。
もちろん本来は"後悔先に立たず"なのは分かってる。でも、今何の役にも立たない後悔を延々と繰り返している俺の頭の中を表すにはこっちの方がぴったりだった。
何であいつはあんなことをしたのか。何でこんなことになったのか。何で、何で……
考えるのは同じゼミの江島のこと。
たまたま席が隣り合わせになったと言うだけの俺に、何故かまとわりついて何かにつけて構ってくる。一緒にレポートの資料を探そうとか先生へ質問しに行こうとか、小学生じゃあるまいし何でいちいち連れ立って行動したがるんだか。
何かと連みたがる奴ってのはいるもんだが、奴が構ってくるのは俺限定。
そんなに俺が頼んなく見えるのかとイライラした。
俺は童顔なせいか年より若く見えて頼りなく思われるのか、あれこれと世話を焼かれることが多い。
気持ちはありがたいけど、正直言って鬱陶しい。
童顔なんてろくな事がない。高校時代に中学生にカツ上げされそうになったときは、違う意味で泣きそうになった。
もちろん返り討ちにして、きっちり向こうを泣かせたけど。
そんなわけで、大人ぶる気はないけど年相応には見て貰えるように努力している俺としては、あいつのお節介は迷惑だった。
そりゃまあ見てるテレビ番組とか映画の趣味とか色々似たところはあるんで、一緒に出掛ければ楽しいってのはあったけど、そんなときも俺の好きな物優先で、ガキ扱いされてる感じがしてた。
だから昨日、酔っぱらったあいつ面倒を俺が見てやるというのは、いつもと逆みたいでなかなか楽しかったんだ。
何ヶ月かに一度の仲間内でのいつもの飲み会。
普段の江島は酔いつぶれるまで飲むことは無かったんだけど、昨日に限ってやけに上機嫌でグラスを空けるピッチが早くて、足元が危なっかしくなる程に酔っぱらいやがった。
だからいつもなら電車の始発の時間までカラオケだ何だとオールで遊び歩くところを、歩いて行ける距離だった俺の部屋まで肩を貸して連れて帰ることにしたんだ。
学生のひとり暮らしのアパートと言えば、狭くて散らかってるのが定番。
俺の部屋もご多分に漏れず、入ってすぐに台所とユニットバスがあって、その奥にベッドとセンターテーブルを置いたらそれで一杯なくらい小さな一間があるっきり。しかも散らかり放題。
俺は床に散らばった雑誌を端に積み上げ、取り込んだままほったらかしにしていた洗濯物を押し入に放り込み、何とか人ひとり横になれるくらいのスペースを作った。
後はもう布団無しでも十分な季節だから、クッションを敷いてバスタオルを掛ければいいだろう。
ようやくめどが付いて放ったらかしにしていた江島へと視線を移すと、俺が頑張って寝る場所を作ってやってたのに、当の本人は俺のベッドに座ってボーッとベッドを眺めていやがった。
「ふーん。慎次、ここで寝てるんだ」
「おい、そこで寝るなよ。お前は床だぞ」
言ってるそばから、江島は俺の枕に突っ伏して目を閉じる。
「こら、起きろー」
ベッドに寝転がった江島の上に乗っかってボディプレスをかけながら耳元に呼びかける。
この夜中にこんな安普請のアパートで大声出したら隣近所からの苦情は必須だから大きな声は出せない。
だからそうしただけなんだけど、プロレスごっこと思われたのか、江島は自分の身体の上から俺を横倒しにベッドの上に落とすと、逆にのし掛かってきた。
「重いー。こんな重い掛け布団はいらないぞ。どけよ」
押しのけようとしても江島は執拗に覆い被さってくる。
首筋に顔を埋められて、そこに掛かる息や髪がくすぐったくてくすくす笑うと、江島も顔を上げて俺の顔を見ながら嬉しそうに笑った。
江島がこんな無邪気な顔をするなんて知らなかった。
いっつも俺が誰かとふざけてると眉間に皺寄せてバカにした風に見てるくせに、自分だって酔ったら案外子供なんじゃないか。
「こーら、こんなことしたらくすぐったいじゃねーか」
まだ酔いが残ったハイな気分も手伝って、俺も江島をくすぐり返す。その仕返しにまた江島が俺をくすぐる。
狭いベッドの上、ふたりして声を殺して笑う。
友達とこんなじゃれ合いをするなんて、中学生の時以来な気がする。俺は楽しくなって、重いけどこのままふたりでベッドで寝ちゃうのもいいかもという気になってきた。何より眠い。
「もう寝ようぜ……」
折角作ったスペースは勿体なかったが、ベッドから追い出すのはやめにしてこのまま寝ちまおうと、俺は江島を乗っけたまま目を閉じた。
江島もすぐに眠ってしまうと思ったけど、なぜだか奴は俺の髪を梳いたり頬に触れたりしてなかなか寝ようとしない。
さすがにちょっと鬱陶しくなってきて江島の手を払いのけようとしたが、その手を掴まれてベッドに押しつけられる。
「慎次」
おまけに名前まで呼ばれて「遊んでないでもう寝ろ」と言おうと目を開けた。
その目の前に、本当にすぐ目の前すぎて一瞬何だかよく分からなかったけど、江島の顔があった。
唇に当たってるのは、多分というか確実に江島の唇……
一気に眠気がぶっ飛んで、押しのけようとしても右手はがっちり掴まれたままだし、左手は江島の身体の下敷きになってて動かせない。
顔を逸らして逃げようとしても、さっきまで優しい手つきで俺の髪を梳いてたはずの江島の指が髪を絡めるように掴んでいて逸らせない。
唯一動かせる足をばたつかせてみても、まるで意味がない。
「んーっ、んー」
声を上げて抗議しようにも歯を食いしばっていないと舌が、江島の舌が俺の口ん中に進入を試みてる気が……というか、確実に入る隙はないかと俺の歯列をなぞってるのが分かるから口を開けない。
鼻から抜ける情けない声とも言えない声に、抗議の意を込めるしかなかった。
今までにキスをしたことがないわけじゃない。これでも高校時代に彼女はいたから2回ほどした。
だけどそれは本当に唇と唇を合わせるだけの、柔らかくって優しいキスだった。
お互いの進学先のことでもめてケンカ別れしちまったけど、あのキスしたときの柔らかな感覚と彼女のことをスゴく好きだと感じた気持ちは今でも覚えてる。
キスは好きでもない相手とするもんじゃない。
――江島は誰か好きな人がいるんだろうか? その人と俺を間違えてこんなことしてきたんだろうか?
とにかくその相手は俺じゃない。だから俺は硬く唇を結んで、無理矢理押しつけられる江島の唇を拒んだ。
ようやく諦めたのか唇を離した江島は、困惑したような表情で俺を見る。おいおい、人違いされて困ってるのはこっちだ。
「離せこのバカ! 何て事しやがる。相手をちゃんと確かめろ」
あくまでも小声で、でも語気を強めて抗議する。
とにかくまずはこの状況から逃れようと、俺はようやく江島の下から引き抜いた左手も駆使してその身体を突っぱねる。
力一杯押してみるけど、元々江島の方が体格がいい上にのし掛かられてるから効果無し。押しのけるどころか両手を掴まれて再びベッドに押しつけられる。
それからまた迫ってくる江島の唇から顔を背けると、今度は首筋に唇を落としてきた。さらにそのまま首筋に音を立てて吸い付いてくる。
「ひゃっ、止っめ……」
くすぐったさと気持ち悪さに必死で江島の手を振り解いた。つもりだったんだけど、江島が自分から手を離しただけだった。
江島は上半身を起こして自分のシャツを脱ぎ捨てると、再び覆い被さって暴れる俺の身体を押さえつけて撫で回す。
俺は自由になった両手を駆使して逃げようともがくが、首筋に埋められた顔を押しのけるのが精一杯で、身体を這う江島の手までは止められない。
「いっ、やめ。ちょっと待てって。それは!」
腹から下へと辿った指先が、シャレにならない部分にまで伸ばされる。
酔って意識モーローで俺を女と間違えて押し倒したにしたって、ここに触ったら相手が男だって事に気付くだろうに、止めようとしない。
それどころかズボンの上からやんわりと中心を掴むように力を込める。完全に相手が男だって分かっててやってる!
「は、離せバカ!」
戸惑いが嫌悪と恐怖に変わる。
首を振って、身体をよじってむちゃくちゃに暴れる。江島は顔を上げると、抵抗する俺をイラついたように睨む。
その射るような視線にちょっと怯みそうになったけど、怒ってるのはこっちだ! 負けじと睨み返したが江島も怯まない。それどころか懲りずにキスしようと迫ってくる。
それを阻止しようと江島の顔にビタッと手のひらを押しつけて押し返そうとしたけど、江島は俺のその手を掴むと指を口に含んだ。
「止めろ!」
指に滑った熱い舌が絡みついてくる感覚にとっさに大きな声を出してしまい、慌てて口を塞ぐ。
ここで大声を出して、隣の奴がうるさがって様子でも見に来たら……
江島に肩を貸しながら部屋に入ったから、カギを掛けた覚えがない。
おまけに電気を消すまもなくベッドに転がっちゃったから灯りは付けっぱなし。誰かに戸を開けられたら確実に見られてしまう。
男にベッドに押し倒されてるこんな無様な様を見られたら、このアパートにいられなくなるどころか学校にも行けなくなる。
このアパートの住人はほぼ全員同じ大学の学生だから、学校で噂が広がるのは確実。それは困る。
とにかく声を立てないように、キスされないように、唇の前に腕をかざす。
たっぷり舐め上げられてようやく自由になった方の手で江島を止めようとしても止められるわけもなく、江島の手は俺の身体をなで回したあげくにシャツをめくって肌に直接触れてくる。
今までよりさらにダイレクトに江島の手の感触が伝わってくる。
「こ、の。よせよ。なあ、もう止めろったら」
小声だけど聞こえてるはずの俺の声を無視して、江島は俺のシャツを胸までたくし上げ何かを探すようにさらに丹念に肌の上に手を這わす。そして目的の物を見つけたのか手を止めた。
僅かばかりの胸の突起。男の乳首なんか触って楽しいのかよ。
俺には理解できないけど、江島はそこを執拗に指の腹でこねて形を露わにさせる。くすぐったいというか、ぞくぞくして変な感じがする。
「離せ――やっ!」
江島は硬くなったそれを、チロっと舌を出して舐めた。とたんに何かのスイッチでも押されたみたいにビクンと身体がはねた。
江島はさらにその存在を確認するように、舌全体を押しつけるようにして舐めてくる。
冷たい指先と違って熱く滑った感触は、くすぐったさとまた別の感覚を湧き上がらせる。
「うっそ、だろ。止めっ、やっ、あっ」
その行為も、それに反応している自分も信じられない。
江島は嫌がる俺の反応を楽しむようにさらにそこをすぼませた舌で転がすように押したり、唇で吸い上げたりしながら、右の次は左、とご丁寧に両方に同じように舌を這わせる。
片方を口に含みながらもう一方には指を這わす。
さんざん舐められて滑ったそこは、もう指でいじられてるのか舌で舐められてるのか分からない。
「離……し、嫌、あっう」
制止の言葉を言おうとしても、まともに言葉にならない。ただ悪戯に情けない声を立ててしまう。
さらに追い打ちをかけるように、空いた右手でまた股間に触れてきた。
「いっやだ! ひっ」
触られてなかったそこまで反応しちまってる。
それを知られた恥ずかしさで、顔が火照って耳まで熱くなる。
何とか江島の手を振り解こうと身をよじるけど全然効果はなくて、江島はファスナーを下ろしてズボンの中に手をねじ込んできた。ファスナーの上のボタンも外して、立ち上がり始めてるそれを引き出そうとする。
それが分かっているのに止められない。
その間も胸をいたぶる舌は休み無く動いて、猫が水を飲むみたいにぴちゃぴちゃ音を立てる。
もうどちらを止めればいいのか分からない。歯を食いしばり闇雲に首を振って、漏れそうになる声を殺す事しかできない。
「……んっう」
でも声を上げないよういくら歯を食いしばっても江島の舌が、手が、触れる度にこぼれるように声が漏れてしまう。
くすぐったさも、過ぎると痛いくらに感じて身体がビクビク反応する。
そんな俺の反応を確かめるように、江島はじっと俺の顔を見上げてくる。見つめながら、確実に俺が声を上げる場所を執拗に触ってくる。
俺はせめてもの抵抗に腕で顔を覆い、奴の視線から逃げる。ついでに、声を立てないように前にかざした自分の腕で必死に口を塞ぐ。
「あっ――」
それでもまた声を上げそうになって、俺はとっさにかざした自分の腕を噛んで堪えた。
歯が食い込んで痛いけど声は止められるし、その痛みのお陰で気がそれる。
かき乱されそうな意識を痛みで押さえて、何とか逃げられないかと身体をひねってみる。
でもそれがマズかった。
腰を浮かす形になっちまって、そこからするりと手を差し込まれて身体を持ち上げられ、空いた隙間からズボンどころかパンツの中に手を入れられる。
そして直に尻に触れるなんてもんじゃない、尻を掴まれた。
「やっ!」
谷の部分に指が食い込んで、今まで感じたこともないようなしびれみたいな感覚が背中を走って、思わず上がりそうになった声を、腕を噛む口に力を込めることで堪える。
声を殺すのに必死な間に、一気にパンツごとズボンを下ろされ、露わになった俺のモノを江島が掴む。
そのまま先端から根本へ、根本から先端へゆっくり形を確かめるように手のひらを滑らせる。
蹴り上げて止めようにも、太ももの途中で止まったズボンのせいでまともに足が動かせない。闇雲にもがく程度のことしか出来ないのがもどかしい。
「んんっ……んぅん」
腕を噛んで口を塞いでも、鼻から漏れる情けない声までは抑えられない。
さらに江島が俺のモノに絡めた指を動かす度に、微かにくちゅりと粘った水を含んだ音まで聞こえてきて、絶望的な気分になる。
滑ってるのは、堪えても堪えきれずに漏れ出した俺の先走りのせいだ。
俺、江島の指で、手のひらで感じちまってる。そのことが、ぬめった感覚が、俺をますます追い立てる。
ここまできたらもう押さえられない。
いっちまうしかない。江島の手の中で?
「い……や、だ。もう嫌だ」
もう抑えなくても吐息ほどの声しか出ない。両手で江島の身体を押しのけようとしても、腕に力が入らない。
ようやく絞り出した拒絶の言葉もあっさり無視され、俺のモノを包み込んで根本から先に向かって扱くように上下させるあいつの手は止まらない。
「慎次、慎次……気持ち、いい? いいだろ?」
江島は俺に耳元に囁きかけると言うより、耳たぶを甘噛みするくらい唇を寄せて訊いてくる。
「い、やだ。やだ、気持ち悪いっ。離せ、あっ」
「こうしたら、いいか?」
江島はにぎり込んで上下させていた手を止めると、先端に指の腹を滑らせくぼんだ部分をいじる。
「ひっ」
そのとたん背中が反り返る。その反応に嬉しそうに笑顔を浮かべた江島は、今までよりさらに強く大きく手を動かして扱いてくる。
「慎次、いい? いいんだ」
「あ、ああっ、ああああ……あっ……やっ、ああっ」
その動きに俺はもう声を堪えて荒い息を吐くのが精一杯で、何も考えられない。ただただ首を振って絶頂まで登り詰めて、果てた。
「は……ぁ」
情けなさと安堵感と絶望と、何もかもがぐちゃぐちゃになった感情をはき出すように俺は深く息をついた。
江島は、震えるように上下する俺の胸に顔をすりつけて軽いキスを繰り返している。
自分の放った物がトロリとお尻の間を伝う感覚に鳥肌が立つ。さらにくぼみの奥に流れ込むそれを追う江島の指先に全身が強ばる。
何てとこを触るんだ!
ここから先にやられる事っていったら――それは嫌だ! 絶対にそれだけは嫌だ。痛そうなのはご免だ。
「ちょっ、離せ。そんな……駄目だって。この、触んなっバカ、止めろ」
俺は萎えかけた気力を振り絞り、小声でだがののしり続けるがそんなことで江島が止まるわけもない。
「ひっ、あ!」
中心に軽く指を押し当てられただけで、身体が反って声も抑えられない。
駄目だ。この先はもう絶対に耐えられない。
江島の腕の中から逃げられないならせめて、戦意を喪失させる方向に持って行くしかない。
つまりは俺が、俺の手で江島をイかしちまうってことだ。
俺は手を伸ばして、すでに硬く立ち上がってる江島のモノに恐る恐る触れてみた。
他人の物になんて触ったのは初めてでしかもその状態が状態だし、やっぱり無理かもと思って手を引きかけたけど、江島は逃すまいと上から俺の手を握ってきた。
「慎次」
そのまま包み込むように握った俺の手を動かし、熱いモノを手のひらにこすりつけてくる。俺の手の中で江島のが堅さと大きさを増していくのが分かる。
「もぅ、やだよ……なんなんだよ、ちくしょ……」
情けなくも思わず泣き言が口を突くけど、ここで手を離したらもっと酷い状況になるのは目に見えてる。覚悟を決めて続けるしかない。
俺も男だからどうすればいいのかは分かる。それに、さっき江島が俺にしたみたいにすればいい。やんわりにぎり込んで強弱を付けながら扱く。
「う、ん……慎次」
ちょっと先端を指の腹でさすると、江島はうっとりと気持ちよくって堪んないって顔して俺の名を呼ぶ。
そうだ。俺もこうされて、すごく気持ちよかったんだ。
ヤバいくらい江島の息が早くなっていく。じっと俺の顔を見ていじらしいくらいにひたむきに名前を呼んで、そしてキスの雨を降らせる。
唇に限らず頬に、首筋に、噛み付くように唇を押しつけ甘噛みして、舌を這わしてくる。
俺の手の動きに合わせるように腰を揺すって俺に身体をすりつけてくる。その度に滑った先端が当たって気持ちが悪い。
気持ち悪い、はずなのに俺は反応しちまってる。さっきいったばかりの俺のモノも江島のに負けないくらい熱くなってる。
俺はおかしくなっちゃったんだろうか。
直接触れられてる訳でもないのに揺すぶられる感覚だけで、いや、それだけじゃない。声とか音とか何もかも全部の感覚があそこに集中する。目を閉じても逃げられない。むしろ目を閉じたらより感じてしまう。
目を開けると、熱く潤んだあいつの目と視線が合う。恥ずかしいのに視線をそらせない。
「慎次、慎次」
ひたすら俺の名前を呼ぶ。他に言うこと無いのかよ。
だけど俺の方も声に答えるように闇雲に手を動かし続けることしか出来ない。
「慎次っ、んっくっ、ああ、あっ、はぁ……」
江島の呼吸に急かされるように俺の手の動きも早まって――俺は他人がいくとこを初めて見た。
そして、迸る熱いモノが腹に降りかかる感覚に、俺もまた達してしまった。
もういい。もう手を離せばいいのに、俺は最後まで、江島が満足しきるまでゆっくり手を動かし続けた。
全部出し切って、何度も俺にキスして――それでやっと眠った江島の下から俺はようやく抜け出すことが出来た。
胸まで飛び散った白濁した液を手で拭う。ぬっとりした感覚が指の間にまで絡まって気持ち悪い。もうどっちのなんだか分からないそれを、シーツになすりつけた。
もちろん手で拭った程度で飛び散った痕跡がすべて消せるわけもなく、俺は仕方なくバスルームに向かった。
シャワーの音で江島が起きたらどうしようと思ったけど、このまんまじゃ気持ち悪いしどこにも行けない。なるべく静かにシャワーをあびた。
汚れを落として服を着替えると、濡れた髪もそのままに外へと抜け出した。俺の部屋なんだから俺が出て行くことはないんだけど、下手に起こしてまた襲いかかられたら今度こそヤバそうなんで逃げることにした。
とはいえどこに行く当てもない。
駅前のコンビニででも時間を潰そうと駅の方に向かって歩いていくと、もう電車が走っているのが見えた。まだ濡れた髪が冷たいし頭もボーッとして眠いしで、電車の中で一眠りしようと乗り込んだんだけど、結局眠れなかった。
ずっとぐだぐだと思い返すことしかできないまま、ただ電車に揺られていたんだ。