Dec Christmastide −2−

 曇っているけどそんなに寒くは無いから、今夜は雪は降らないだろう。
 鍋でクリスマスを祝っちゃう奴がホワイトクリスマスを期待するなんておかしな物だけど、やっぱり雪が降ってた方が気分が盛り上がるよな。

「もうそろそろ入れるよ。聡が先に入って」
 カーテンを開けてぼんやりと外を眺めていると、お湯加減を見てきた日高が戻ってきてお風呂を勧めてくれた。
「俺は後でいいよ」
「どうして?」
「どうしてって……部屋の主を差し置いて一番風呂っていうのも……」
「それじゃあ、一緒に入る?」
「ええっ?」
 一緒にって、そんな。前にプールで一緒にシャワーを浴びたことはあるけど、お風呂となると……しかも今のこんな状況でなんて恥ずかしすぎる。
 思わず恥ずかしさと緊張で硬直してしまった俺を見て、日高が喉の奥でクッと笑いを堪えたのが分かった。
 か、からかわれた! それに気付いて日高を睨み付けると、さらに日高は面白そうに笑った。
「じゃあ先に入ってくる!」
「タオルは洗濯機の上に置いてあるから。シャワーの使い方は分かるよね? 始めはちょっと冷たい水が出るから気をつけてね」
 恥ずかしいのと腹が立ったのとで、後ろから呼びかける日高の声を聞きながら俺は逃げ込むように脱衣所に入った。 


 昨日もしっかり洗ったんだけど、今日も念入りに身体を洗うと俺は湯船に浸かった。
「ふぅ」
 胸までお湯に浸かりながら、白い天井を見上げる。
 ホテルのみたいに窓のないこんなお風呂って慣れてないんだよね。まだトイレと一緒になってて身体を洗うスペースがないタイプのよりはマシだけど、落ち着かない。
 落ち着かない本当の理由は場所のせいじゃないんだけど。
 お風呂から上がったら後は寝るだけ。日高とふたりで……もちろん何にもしないでただ寝るわけじゃなくて……
 ああ、緊張するなぁ。
 俺だって友達から借りてAVくらい観たことあるけど、いざ自分がそんなことを……しかも日高と、なんて……
 日高のことをただ憧れて見ていた頃は、こんなこと考えもしなかった。
 だけど今は、日高以外は考えられない。
 日高は男だし、俺も男だし。不自然なはずなのに、他の人なんて考えられなかった。
 中学、高校と陸上一筋で彼女を作る事なんて考えないで来たから、女の子に興味が無くなっちゃったのかとも思ったけど、そんなんじゃない。
 俺は日高が好きなんだ。
 改めて自分の気持ちを確認した。好きなら別に迷う事なんて無い。
「よし!」
 俺は気合いを入れて湯船から立ち上がった。


「しまったなー、どうしよう……」
 覚悟を決めてお風呂から上がったのはいいんだけど、脱衣所にパジャマを持って入るのを忘れたのに気付いて、俺はタオルを腰に巻いたまま立ちすくんでいた。
 どうしよう? こんな場合に裸で出て行くとやる気満々みたいで恥ずかしいし、日高を急かせるみたいで悪いよな。日高だってゆっくりお風呂に入りたいだろうし……
「聡? もう上がってるよね?」
「わっ! あ、うん」
 扉の向こうの日高に突然声をかけられて、思いっきりキョドってしまったけど取りあえず返事をすると、日高が脱衣所の戸を開けてちょっと顔を覗かせた。
「ドライヤーならそこの洗面台の鏡が開くようになってて、その裏にあるから」
「え、あ、ありがと。ファンヒーターの前に座ってたら乾くからいいよ」
 脱衣所でおたおたしているとドライヤーを探してると思われたのか、日高が置き場所を教えに来てくれたんで、その隙に日高の横をすり抜けて脱衣所を出た。
「そう? しっかり乾かさないと風邪引くよ」
「ん、大丈夫、大丈夫。家ではいつもそうしてるから」
 腰にタオルを巻いたまま部屋の隅に置いてた自分の鞄の所まで行って振り返ると、俺と入れ替わりに日高が脱衣所に入って行くのが見えた。
 日高の姿が見えなくなって、俺はホッと息を付いた。

 今からこんなに緊張しちゃっててどうするんだ。
 俺はパジャマ代わりに持ってきたフリースの上下を着ると、ファンヒーターに頭を向けて、ごろんと床に横になった。
 フローリングの床は硬くて冷たいけど、風呂上がりの身体にはちょうどいいくらいだ。
 そこから横を向いて、暖房の熱が行くように開け放してある引き戸の隙間から隣の部屋を眺める。
 まだベッドが置かれただけの殺風景な部屋。
 これから、あの部屋で日高と……キスして、触って……それからどうしよう? やっぱり服は全部脱ぐんだよな。
 夏にプールで水着姿で日高と抱き合ったことがあるから、大したこと無いよな。そっからパンツ一枚引くくらい……その一枚の差がなぁ……
 だけど日高の、見たいな。見られるのは恥ずかしいけど、見てみたい。
「そんなところで寝ちゃ駄目だよ、聡」
「うっわ! ね、寝てない寝てない!」
 考え事に夢中になってる間に日高がお風呂から上がってきていた。俺は慌てて起き上がった。
 日高ももうパジャマを着てるけど、まだ髪が濡れている。元々真っ黒で綺麗な日高の髪は、濡れているとさらにつやつやとして綺麗に見える。
「まだ髪が濡れてるよ」
 俺は日高の手を取って自分の横、ファンヒーターの前に座らせると、日高が肩にかけてたタオルを頭にかぶせてガシガシと髪を拭いた。
「ちょっと、聡っ」
「しっかり乾かさないと風邪引くぞー」
 乱暴に髪を拭く俺を日高が笑いながら止めようとするけど、さっき俺をからかったお返しとばかりにぐしゃぐしゃ派手に日高の髪をかき回した。
 何とか手探りで俺の手を捕まえて止めた日高が、プハっとタオルの間から顔を出す。
 そうすると俺は日高に手首を掴まれたまま、真正面から至近距離で見つめ合う形になってしまった。
「……俺、日高の髪……好きだ。サラサラでさ、跳ねたりとかしないだろ? 俺は、結構寝癖とか付きやすくて――」
「僕も聡が好きだよ」
 黙って見つめ合うのは気詰まりで、取り留めもなく話し始めた俺の言葉を日高が止める。
 至近距離で見つめ合うのが恥ずかしくって、思わず顔を背けて目を逸らしてしまう。

「同じベッドは嫌なら、僕はこっちの部屋で寝るから」
 日高の言葉に逸らしていた視線を合わせる。
 これは最終確認だよな。ここまで来ても日高はまだ俺の気持ちを優先しようとしてくれてる。
「大丈夫だよ。俺、そんなに寝相はひどくないから」
「聡、本当に?」
 日高の想いに答えようとしても、思わず照れ隠しに茶化してしまう俺に、日高が真剣な表情が本当にこの意味が分かっているのかと訊ねてくる。
「うん」
 ここまで来て逃げたりしない。それどころか俺だって日高を好きで――
「日高と一緒に、寝たい」
 俺の手を掴んでいた日高の手をそのまま引き寄せて、身体を重ねて日高の耳元で答える。
 お風呂から上がったばかりの日高の身体はまだ温かい。
 その首筋にそっとキスしてみる。日高がしてくれるみたいに。
「聡……」
 日高の手が俺の背中に回る。そのまま抱きしめられるかと思ったら、日高は腰を上げて俺の腕を引っ張った。
「ベッドに行こう」
「あ、ああ。うん」
 それもそうだ。こんな所じゃ駄目だよな。
 暖房を切ってふたりで隣の部屋へ移動すると、まだベッドしかない部屋だからベッドに腰掛ける。
「電気は消そうよ」
「どうして?」
 後から入ってきた日高に電気を消してもらおうと思ったのに、ナチュラルに拒否された。
「寝るときには電気は消すだろ。もったいない」
「今日は消す方がもったいない気がするんだけど」
「だって……」
 服を全部脱ぐのに電気がついてるなんて恥ずかしいじゃないか。日高は恥ずかしくないのかな? 俺だってそんなに恥ずかしい物ではないと思うけど、やっぱり恥ずかしいぞ!
「じゃあ、これでいい?」
 日高が部屋の入り口にあるスイッチを切り替えると、メインの照明は消えて窓際の小さなルームランプがついた。
 確かに暗くはなったけど、薄明るいこの照明の方がいやらしい感じというか……雰囲気出ちゃうよ。
 でも真っ暗にするわけにもいかないし、これ以上我が侭も言えない。
 何も言わない俺に、日高もこっちにやって来て俺の隣に座った。


 何を言えばいいのか分からない。だから黙って見つめ合う。お互いに何がおかしいのか分からないけど、見つめ合うと笑えてきた。
 そのまま互いに近づきあって自然に唇を合わせる。
 もう何度したのか分からないほど、日高とはたくさんキスをした。その度にドキドキしたけど今日は特別にドキドキする。それを押さえるように日高の背中に腕を回して強くしがみついた。
「……聡」
 日高も俺の身体を抱きしめて、それからその手で俺の服をたくし上げてきた。
 俺も日高を脱がすべきか、それとも自分で脱ぐって言うべきか? 日高は前開きのごく普通のパジャマだから、ボタンを外していけばいいかな?
 抱き合ったまま少し身体をずらして手探りで日高のボタンに手をかけたんだけど、手が滑って外すのを失敗してしまった。
 うう、恥ずかしい。緊張して手が震えちゃってるんだ。
「聡、僕は自分で脱ぐから、聡も自分で」
「うん」
 やっぱりこのままじゃお互い脱ぎにくい。
 一端身体を離して互いに自分で脱ぐことにして、俺はフリースのシャツを一気にがばっと脱いだ。
 チラッと横目で日高を見ると、日高はボタンだから外すのにちょっと時間がかかってるみたいだ。この間にズボンも脱ぐべきかな? パンツも……それはちょっと気が早い?
 駄目だ。何とかなるかと思ってたけど、いざ本番となると分からないことだらけだ。もっと落ち着かなきゃ。
 日高は落ち着いてるんだし、見習わないと。

 だけど、日高だって女の子と付き合ったとか聞いたこと無いし、もちろん男とも付き合ったことなんて無いと思う。でも、一応は訊いてみようかな。
「あのさ、日高」
「ん?」
「日高は、その……女の子とって言うか、誰かと付き合ったこと、ある?」
「ないよ。聡もだよね?」
「え、うん」
「だけど、どうすればいいのかくらいは分かるよ」
「あ、ああ、うん。そうだよね」
 付き合ったことが無くたって、情報が溢れてる今どきやり方くらいは俺だって知ってる。男同士でだってどうするのか、知ってるけど……知ってるだけだし。本当にそれをしちゃうとなると……
「あ、ちょ、ちょっと! 日高」
 思わず固まって考え込んでしまった俺のズボンに、上を脱ぎ終えた日高が手をかけて下ろそうとするのを止める。
「脱がなきゃ出来ないじゃない」
 それくらい分かってるだろうと目で訴えてくる。確かに分かってる。分かってるんだけど!
「いいよ、ねぇ、自分で脱ぐから! あっ」
「聡って首筋は結構大丈夫なくせに、脇は弱いんだね」
「だあって! ん、くすぐったいってば!」
 止めようとしたけど、ズボンを下ろそうとする日高の手が脇腹に当たってくすぐったくて手を離してしまう。その隙にズボンを膝の辺りまでずらされてしまった。
 露わになった太ももに日高が頬ずりして、さらにそこにキスしてくる。
「聡の足……綺麗」
「ひ、日高、んっ、ちょっと……ねぇ」
 足なんて部活ではいつも半ズボンだから見られたって恥ずかしいことはない。だけど、そこに触られる、ましてキスされるとなると話は別だ。
 内側に頬をすり寄せてキスされるというか、舐められて身がすくんで肩が上がる。ちろりと見える日高のピンク色の舌が何かやらしくてゾクゾクする。
「くすぐったいよ、日高」
「足首は細いのに、この辺りは筋肉が付いてて……すごいね。ずっと、こんな風に触れてみたかった」
 囁く日高の吐息を肌に感じるだけで息が乱れる。嫌なんじゃない。気持ちがいいとは言えないけど、だけどやめさせることは出来なくてただ日高の髪を掴んでいることしかできない。
 そのままズボンも脱がされて、上半身にも何も身につけてないほとんど裸状態になっちゃったせいで、ちょっと寒くなってきた。

「日高、ね……寒いよ」
「ああ、ごめん。これでいい?」
 俺の言葉に日高は俺の足から手を離すと、布団を自分の肩まで被って俺に覆い被さってくる。そのままのし掛かられて一緒にベッドに倒れ込む。
 確かにこれなら暖かい。
 俺は笑顔で日高の首筋に両手を回そうとして、はたとあることに気付いて止まった。
「う、ん? ああ! 日高ずるい! ズボン脱いでないだろ」
「いいじゃない、もう」
「駄目! ずるいよ、俺だけ脱がして!」
「聡! ね、もう、焦らさないで!」
「あっ、日高っ」
 唯一身につけているパンツの上から股間を触られて身体が反り返る。
「日高……ちょっと、待っ……あっん」
 な、何だよ、今の声。
 自分声に顔がカッと熱くなる。何を恥ずかしい声を出しちゃってるんだ。
「は、あぁっ」
 なんて恥ずかしがってる間にも、また日高の手の動きに堪えきれずに情けない声を出してしまう。
「こ、この部屋って、テレビ、無いんだ。……オーディオとかも」
「え? 何か……見たい番組でもあったの?」
 俺の変な質問に、日高が顔を上げて俺の顔をのぞき込んでくる。この状況でこんなこと言われたらそりゃ困惑するよな。
「あ、いや、そう言うわけじゃ、ないんだけど……」
「声を聞かれるのが恥ずかしいんだ」
 テレビが見たいわけじゃない。ただ何か音楽でもかかってれば声がごまかせていいなって、思ったんだけど見透かされた。
「駄目だよ。全部聞かせて」
「ふっ、ああ! やだよっ、日高ってば」
 日高の手が今度はパンツの中にまで入ってきて、直接触られた。
 いきなりだしこんなところ今まで人に触られたことないし、驚いて思わず制止してしまう。
「嫌?」
 心配そうに動きを止めて俺を見つめる日高に、口を開いたらまた変な声を出してしまいそうで黙ってブンブン首を振った。
 声を出しちゃう自分が嫌なんであって、日高のことが嫌なわけではない。
 こういう事をするって分かってて来たんだし、俺だって日高に触りたいし……触られたい。
「日高。俺、日高にだったら何されてもいい」
「聡……」
 日高が俺をどうしたいのか知りたい。呼吸を整えてようやくそれだけ言うと、日高は嬉しそうに微笑んだ。
 俺の大好きな日高の笑顔。
 日高は俺に何をしてもいいんだ。


「ちょっとだけ、我慢してね」
「ひっ」
 最後の一枚まで脱がされて俯せにされ、何か冷たくてヌルヌルした物を後ろに塗られて身体が強ばる。
「んっ……ね、それ、何?」
 振り返って確認しようとするけど日高にのし掛かられてるから動けない。何をされてもいいと思ってはいるけど、得体の知れないヌルヌルはやっぱり嫌だぞ。
「大丈夫。その……滑りをよくするジェルだから。大丈夫だよ」
 俺が怯えないように説明しながら、日高はゆっくり手を動かし続ける。その指がゆっくり中まで入ってくる。
「んっ」
「痛い?」
 息を詰まらせる俺に日高が耳元に唇を寄せて訊いてくるから、唇を噛んで声を殺したまま首を振る。
 本当に痛くはない。ただ、こんな自分で触ったことすらない所を日高に触られるのは恥ずかしい。
 その間にも日高の指は抜き差しを繰り返しながら奥にと入ってくる。
 こういう事に使う物ってちゃんとあるんだ。そんなものどこで? って言うかそんな物の用意までしてたなんて。さすが日高! と言うべきか?
 枕の下かどっかに隠してたんだ。いや、隠してたって言うのはおかしいか。
「あ……あ、は……んんっ」
 頭の中は冷静っぽいんだけど、実はめちゃめちゃ混乱していた。何か考えていないとおかしくなりそうで必死に思いつく限りのことを考えて気を逸らしていた。
「ふっ、うう」
 こんな風に触られるのが、こんなに気持ちいいなんて。気持ちがよすぎて震えがくる。声も抑えきれなくて、自分で出すいやらしい声がまた恥ずかしくてただ両手でシーツを掴んで耐えることしか出来ない。

「あっ、駄目! ……そんなっ、ああんっ、あ、ああ」
 ジェルで濡れた日高の手が前に回って俺の物を掴んできた。そのままゆっくり上下に動かされて、感じるままに声を出してしまう。
「聡……はぁ……」
「ん……ひ、日高。あ、あっ日高」
 もう日高のことしか考えられない。日高の漏らす溜息さえ鳥肌が立つほど感じる。
 ひたすら日高の名前を呼ぶことしか出来なくなった俺の後ろに、さっきまでの指とは比べものにならない物が入ってくるのを感じた。

「あ! はっ――」
 それは痛いと言うより内蔵が押し上げられるような感覚で、息を吐くとそのまま吸うことが出来なくなるほど苦しかった。
「……くっ、ん」
「聡……息をして。ゆっくりでいいから、力を抜いて」
 俺が息を止めているのが分かったのか、日高が優しく声を掛けてくれる。その囁くような日高の声が、ちょっと震えてる。日高も苦しいのかな。俺が力を抜いたら日高も楽になるのかな。
 そう思って意識して肩に入っていた力を抜くと、自然に息を吸うことが出来た。
 そのままゆっくりと呼吸を繰り返すと、身体の力も抜けていく。
「聡っ」
「ああっ」
 力を抜くと、それが分かったのかさらに奥まで日高が押し入ってくる。衝き上げられる感覚にまた詰まりそうになる息を必死に吐き出す。
 自分の中に自分じゃない物を感じるなんて初めてだし、正直言って苦しいし痛い。
 だけどそれは日高だから。
 日高なら構わない。日高なら、痛くても日高のことならもっともっと感じたい。
「ひ、だか……」
「聡、聡……んんっ」
 聞き慣れた、だけど始めて聞く日高のこんな声。俺は何度も衝き上げられながら身体の奥底で、全身で日高を感じていた。



「聡……ねぇ、大丈夫? ちょっと立ってみて。歩ける?」
 ベッドの上に座った日高が、起き上がる気力もなくベッドに伸びている俺の肩に手を掛けて揺さぶって起こそうとする。
「ん……大、丈夫……だったら」
「でも僕、途中から夢中になっちゃって……君に無理をさせて……本当に大丈夫?」
「うん……」
「ねえ、聡! しっかりして」
「日高、うるさい」
 眠くて眠くて仕方がないのに日高が眠らせてくれない。
 心配してくれるの嬉しいし確かに痛い所はあるけど、そんなにめちゃくちゃ痛いわけではないし、それに今は何より眠い。
 俺は日高を抱き寄せて布団の中に引っ張り込んだ。
「でも、聡……」
「なぁ……明日になったらさ、あの公園、行こう。コンビニも探して……あそこで、お昼にしよう」
「うん。いいよ」
 のんきに明日の予定を確認する俺に、日高もようやく大丈夫そうだと分かってくれたのか俺の隣に横になって、話に乗ってきてくれた。
 顔を寄せ合って大きめの枕をふたりで使う。そうして肩まで布団をこっぽり被るとすっごく温かくて、どんどん眠くなっていく。
「それから……それから、どこに行こうって言ってたっけ?」
「100円ショップに本屋に……でもそんなに慌ててあちこち行かなくてもいいじゃない。これから聡もしょっちゅうここに来るんだから」
「そう、だけど……一杯、行きたい。色んなとこ、日高と……」
「うん。僕も。聡と一緒に居たい。ずっと、ずっと」
 もう目を開けているのも辛い。そのまま目を閉じると、日高が俺を腕の中に抱き寄せた。
 目をつぶっても日高を感じる。泣きたいくらいに温かい。


 ずっとこうして一緒にいたい。ふたり同じ事を想いながら眠りについた。 

(up: 24.Dec.2007)

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